薬事法の正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」であり、現在では再生医療等製品の規定が新設し平成26年11月に改正された「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」が相当します。
起源は、江戸幕府第8代将軍徳川吉宗が1716年に開始した享保の改革で日本の薬草の品質の鑑定管理を行うために設置した和薬種改会所とされ、1722年6月に設置された江戸伊勢町を皮切りに大坂淡路町や堺神明町及び京都二条通など全5カ所に設置されました。
徳川吉宗の和薬種改会所の設置は、紀州藩主巨瀬利清娘とされる紀州藩第2代藩主徳川光貞の側室であった母・浄円院に関係あるともされ、巨瀬一族自体は大化改新の4年後に左大臣に就任した巨瀬徳陀や大納言となった巨瀬奈弖麻呂など現在の奈良県御所市古瀬を本拠地とした古代豪族です。
巨瀬一族は、組合取極連印帳によれば大和国の古代忍者一族であり、吉宗の母は薬売り忍者集団の娘であったとも考えられています。
そのため、検査に合格した薬品以外の販売を禁じて品質の確保を図ることで一族の権益を守り幕府による薬草の取り扱い規制した機関でしたが、1738年に廃止されています。
明治時代には、1873年の「売薬取締規制」や1877年の「薬剤取締之法」及び「毒薬劇薬取締規則」が施行され、平成28年3月7日厚生労働省が医薬品医療機器等法に基づいて公示した第17改正日本薬局方の起源となる日本薬局方は1886年に公示されました。
日本薬局方は、中国の北宋時代の1107年〜1110年にかけて編纂された古医書「和剤局方」を模倣したと考えられていますが、中国の南宋時代1131年〜1162年にかけて編纂された「大平民和剤局方」をもとに徳川吉宗の享保の改革でも校刻させたものを官本として刊行されています。
1889年には、薬律と呼ばれる「薬品営業並薬品取扱規則」が施行され、1874年に帝都東京府と京都府及ぶ大阪府の3府に対して通達された「医制」とともに現在の薬事法の根幹となっている法律です。
医制は、1871年から約3年間アメリカとヨーロッパに派遣された岩倉使節団の随行員だった長与専斎が文部省医務局第2代医務局長に就任したことで立案が進められ、1885内閣が成立するまで存続した明治時代前期の最高官庁である太政官の布告で順次施行されて行った法律です。
薬品営業並薬品取扱規則は、現在も使用されている薬剤師や薬局などの用語が初めて使用された法令であり、何度も改正されながら1943年に薬事法が制定されるまで日本の医薬品等を管理しました。
薬品営業並薬品取扱規則では、薬剤師の指導下で全ての医薬品を取り扱う1号業者と厚生労働大臣指定以外のすべての品目を取り扱う2号業者、限定された品目しか扱えない3号業者に制限していますが、販売業者の分類は現行の薬事法にも受け継がれています。
日中戦争時には、第18代内閣総理大臣かつ元帥陸軍大将寺内正毅の長男・寺内寿一が設立させた厚生省の指導下で日本帝国内の製薬メーカーは日本医薬品生産統制株式会社の統制下に入り、薬剤商人は全て日本医薬品配給統制株式会社の統制下に入ることで医薬品の製造と流通を一元管理しました。
しかし、1938年に制定された国家総動員法に基づく医薬品の製造流通の統制は1943年に制定される薬事法へと繋がり、医薬品の品質の標準化と不良医薬品の取り締まりなど現行法に通じるものがあります。
一方で、日本各地で連綿と伝えられてきた40万種類にも及ぶ医薬品の製法や販売を取り締まったこともあり、貴重な医薬品の製法だけでなく存在した形跡まで不明確にしてしまい6,000種類以下まで過去の医薬品を消失させた法律でもあります。
第二次世界大戦後は、国家総動員法に基づく矛盾と横暴の改正を行うとともに1960年に国策として国民皆保険である健康保険制度を施行され、置き薬の販売形態が特例販売業者となったことでさらに医薬品が国民の身近になりました。
平成時代には、総合スーパーだけでなく24時間営業を強みとするコンビニエンスストアが台頭してきたことにより、栄養ドリンクやサプリメントに代表される医薬品外部の承認範囲が拡張されコンビニエンスストアでも従来薬局やドラッグストアでしか購入できなかった医薬品外部購入できるように改正されました。
2009年には、一部の医薬品に関して薬剤師による書面を用いた説明を義務化することで薬剤師不在でも販売が可能となり、コンビニエンスストアでも一部の医薬品の購入が可能です。
また、薬剤師だけでなく一般用医薬品販売の資格である登録販売者による医薬品の販売が可能であり、医療費の抑制目的で第1類医薬品や要指導医薬品などを除く第2類医薬品と第3類医薬品の販売が可能となっています。
現在では、医療機器のIT化に伴って医療用ソフトウェアの規制も行われ、高度管理医療機器プログラムに関する規制が大きな争点となっています。
最終更新日 2025年7月31日 by urisysym